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東京地方裁判所 昭和42年(行ク)34号 決定 1967年9月07日

申立人 株式会社双葉社

被申立人 東京都地方労働委員会

主文

本件申立を棄却する。

理由

本件取消申立の理由は別紙記載のとおりである。

右理由(一)について。

使用者がなした従業員の配置転換を不当労働行為として、使用者に当該従業員を原職に復帰させることを命じ、使用者がこれに従つた場合、及びその救済命令が取消されたときに、使用者が当該従業員を更に配置転換後の職に復帰させる必要がある場合には、使用者が当該従業員の後任として配置した者について更に配置転換等の措置をとる必要の生ずる場合があることはいうまでもないが、不当労働行為に対する救済として従業員について当該不当労働行為がなかつたと同様の状態を回復させるためには、右のような後任者が配置転換等により多少の不利益を蒙つても已むを得ないところであり、そして申立人は後任者を企業外から雇入れた場合解雇の必要が生ずると主張するがそのような必要が生ずることを認める資料はないから、所論のように後任者が不利益を蒙るという理由によつて、申立人に高畑勇外五名を原職に復帰させることを命じた本件救済命令に従うべきことを命ずる緊急命令を違法と解するいわれはない。

同(二)について。

配置転換後の職種が本来労働契約の範囲に属していても、その配置転換が不当労働行為となる場合には、これに対する救済として原職復帰を命じ得ることは多言を要しない。また申立人は、本件配転の前後を通じて高畑勇外五名の労働条件になんら変更がなく、本件救済命令もそのように認定していると主張するけれども、本件救済命令は、給与の面で不利益を受けた者はないといつているにすぎず、本件緊急命令申立書添付の小林昭一、高畑勇、石川正、白井正美、小沢アイ子、加藤昭子の各陳述書によれば、同人らは本件配転に関し、能力、適応性の無視あるいは配転後の職場の労働環境の劣悪等の点について多大の不満を有していることが明らかである。従つて同人らに対する原職復帰を命ずる緊急性がないとの所論は是認できない。

同(三)について。

高畑勇が、本件救済命令が不当労働行為と認めた二回の配置転換後に、更に七回に亘り配置転換を命ぜられていることが同人提出の陳述書によつて明らかであること、及び、本件救済命令が右七回の配置転換についてはなんら不当労働行為の認定をしていないことは所論のとおりであるけれども、そのような場合であつても、最初の配置転換前の原職に復帰させることを命ずることは、救済の必要が存する限りなんら差支なく、右の如く高畑勇を最初の配置転換前の原職に復帰させることを命じた本件救済命令に従うべきことを命じた本件緊急命令はなんら違法ではない。

よつて申立人の主張する理由はすべて採用し難く、他にも本件緊急命令を取消すべき事由を発見できないから、本件取消の申立はこれを棄却すべきものと認め、主文のとおり決定する。

(裁判官 今村三郎)

(別紙)

申立の理由

一、申立人本件外東京出版印刷製本産業労働組合、被申立人株式会社双葉社間の東京都地方労働委員会(都労委)昭和四十年不第三八号不当労働行為救済申立事件について、都労委は昭和四二年三月一四日付を以て救済命令を発した。(甲第一号証命令書)

二、右命令に対し原告双葉社は被告都労委との間で御庁に右命令取消訴訟(御庁昭和四二年(行ウ)第六〇号)を提起し目下係属中である。

三、而して都労委よりの申立により御庁は昭和四二年七月八日別紙添付の如き緊急命令(御庁昭和四二年(行ク)第二六号を発せられた。

四、然し乍ら右緊急命令は(救済命令自体の瑕疵の点は別としても)左記諸点に於て違法であるので之が取消を求める。

(一) 企業内の各部署は、特別の事情がない限り皆当該企業にとつて必要なものであり、若し或部署に置かれた人が他の部署に移るときその穴は必ず後任者を以て埋めねばならず、特にその部署が少人数である場合は、後任者を補充しないと忽ち業務の運営自体が支障を来すに至る。ところで、配転に対し原職復帰の救済命令が出た場合でも、それが確定し終局的実現が必要となつたならば、使用者はそうした事態を前提とした終局的な人員の配置替を行なうことが可能であるが、緊急命令による仮定的な実現であると、後任者の補充も仮定的とならざるを得ない。即ちもし企業外から雇入れるとしても、救済命令が取消されたときは不要になり解雇されるという不利益な条件を負わされた従業員の雇入を仮に行わなければならないことになる。又企業内の者で補充するとしても、救済命令がその部署への配置は不当労働行為であると判断した当該部署を、少くとも係争解決時まで他の者を以て仮定的に穴埋めをさせなければならないことになる。このように、配置転換の原職復帰の緊急命令は、後任者の何らかの犠牲に於て救済申立人が仮の満足を得る結果を斉すのである。

然し不当労働行為の救済制度も組合活動者が然らざる者に比し差別的に不利益な取扱や支配介入を受けるのを防ぐ為の制度たるに止り、組合活動者を然らざる者の犠牲に於てより差別的に有利に扱う事を要求するものではない。この点に於て右の如き状態を仮定的に斉す結果となる配転の原職復帰の緊急命令は本質上緊急命令に親しまない場合として不適法といわなければならない。

(二) 特に本件は、同一事業場内での部課間の配置転換が行なわれたものに対し、申立人は之を不当労働行為なりと主張し都労委もそれを肯認した事案である。

しかし、およそ労働契約の範囲内であり、命令すら労働条件に於ても配転前と変らないと認めた本件の如き配置転換に対する原職復帰は、暫定的実現を必要とする程の緊急性も無い。

(三) 本件緊急命令中、高畑に関する部分には更に左の如き違法がある。

高畑は本件二回(昭和四〇年五月七日及び六月二六日)の配転の他、不当労働行為救済申立事件の審問終結(昭和四一年九月一九日)以前になお四回の配転をうけ、更に審問終結後本件緊急命令発令までの間に更に三回の配転をうけている。この事実は緊急命令申立記録添付の甲第四号証四(高畑陳述書末丁)に記載されているが、都労委自身も此証拠を提出しているくらいであるから右事実を知悉しているものと思われる。

而して右不当労働行為救済申立事件に於て、救済申立人も当初の二回(五月七日及び六月二六日)以後の配転に対しては何らそれが不当労働行為であるとの主張も救済申立もしていないし、また当然のことながら都労委も当初の二回以後の配転に対し不当労働行為であると認定していない。この事実は緊急命令申立記録添付の甲第一号証(命令書)に明かなところである。従つて右救済命令は、当初の二回の配転が不当労働行為である事を前提として、その二回の配転が行なわれる前の状態への復帰を命じているにすぎず、それ以後の配転は右救済命令の対象外の事態であることも、緊急命令申立記録上明白である。

然るに本件緊急命令は右高畑に対しても単純に最初の(五月七日の)配転以前の状態への復帰を命じているが、これは結局救済命令が救済の対象としていない(救済命令外の)前記七回の配転までも取消した結果となつて居り、法律上緊急命令を発し得る限界(労組法第二七条第八項に「その労働委員会の命令の全部又は一部」に対し命じるものとされている。)を超えて、不当労働行為ならざる配転までも取消した違法がある。

緊急命令申立事件

(東京地方昭和四二年(行ク)第二六号 昭和四二年七月八日決定)

申立人 東京都地方労働委員会

被申立人 株式会社双葉社

主文

被申立人は、被申立人を原告とし申立人を被告とする当庁昭和四二年(行ウ)第六〇号不当労働行為救済命令取消請求事件の判決が確定するまで、申立人が被申立人に対してなした都労委昭和四〇年(不)第三八号不当労働行為救済申立事件の命令のうち、「被申立人は、東京出版印刷製本産業労働組合所属の組合員高畑勇、小沢アイ子、小林昭一、白井正美を昭和四〇年五月七日付の配置転換前の、石川正、加藤昭子を同年六月二六日付の配置転換前の、各原職もしくは原職相当の職にそれぞれ復帰させなければならない」との部分に従わなければならない。

(裁判官 今村三郎)

命令書

(東京地労委昭和四〇年(不)第三八号 昭和四二年三月一四日 命令)

申立人 東京出版印刷製本産業労働組合

被申立人 株式会社双葉社

主文

一、被申立人株式会社双葉社は、役員本人又は職制を通じて申立人東京出版印刷製本産業労働組合の組合員に対して同双葉分会からの脱退を勧めてはならない。

二、被申立人株式会社双葉社は、申立人東京出版印刷製本産業労働組合所属の組合員、高畑勇、小沢アイ子、小林昭一、白井正美を昭和四十年五月七日付の配置転換前の石川正、加藤昭子を同年六月二十六日付の配置転換前の原職もしくは原職相当の職にそれぞれ復帰させなければならない。

理  由<省略>

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